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この文章を書いたのは?

Pâtisserie S. パティシエ

金井 聡美

数学とお菓子

パティシエの立場からこの記事を書いている。
数理、数学なんて全く遠い世界の話だし、難しい話なんて出来そうも無いが、いつもと違うそこにベクトルを合わせてみると、なんだか楽しそうな気配だ。

学生の頃は文系より理系が得意だった、
筆者の想いを読み取ったり、興味の無い歴史なんかを暗記するのは苦手で、ロジックにスパっと答えの出る方の分野が単に性に合っていた様に思う。そんな高校時代、授業中に一緒に悪ふざけしていた友人が、あっという間に数学の大学の先生になってしまった。最初は驚きを通り越して信じられず、何度も聞き返したのを覚えている。その彼女が、今日この記事を書くきっかけをくれたのだから、人生はやっぱり不思議で面白い。
  

私は常々、料理とお菓子には、形有るものを作るかどうか、という点が大きく違うと感じでいる。

 お菓子は、形の無いものの出来上がりを想像する、構築する。丸だったり四角だったり、三角だったり、たまには型を使って色んな形を作る事も可能だ。
もちろん、形の無い料理も存在し(スープや、ソースだったり)、料理もお菓子も同様に味を計算して作りあげる。
パティシエにとって、感覚も大事だが、その出来上がったレシピはとても大切なのだ。

想像してみて欲しい、
このくらいの大きさのパンケーキに、、こーのくらいの生クリーム、、いや、明らかに多いだろう、、
こんな感じの積み重ねでケーキ一個が出来上がるのだ。味の足し算や引き算はもちろん、食感や見た目のバランスを考えながらレシピを調整していく。
慣れてくると、頭の中でこの作業が出来る様になり、何となく味と出来上がりの想像が可能になる。言わばトレーニングの様なものなのかもしれない。

 そう、甘い層を作り上げる緻密な計算が必要なのだ!!なんてとってもカッコ良さげな話をしたが、実はこの話にはオチがあって、実際のところ、正解は無いしゴールも無い、最後の終わりを自分で決める、如何様にもなり得る作業だ。
シェフによってその方程式が違ってくるし、その形が更に日々変化し得るのだ。
強いて言うなら、美味しい、美しい、となる為の計算をコツコツと重ねていく、そして一度答えが出たその先に、またある日もっと素晴らしい、もっと美味しい答えを見つけられることも有る、まるで数学者の発明の様に!?

 

最後に、余談になるが、私の住んでいるフランスでは、レジでの会計でおつりを渡される時、お店の人が決まって足し算で計算をする。日本式の50-20=30 では無く、20+30=50の方向で計算され、足りない金額をレジから数えながら出して、手渡してくれる、絶対的に時間がかかる。
 このシーンだけを見ると、フランス人は計算が得意ではないなあ、と一見思うのだが、実はとても数字好きで、ニュースや日常の会話で数字が頻繁に出てくる。
 特にパーセントで会話をするのが大好きで、去年から自転車利用者が街で何パーセント増えた、とか、子供の何パーセントが朝ご飯を食べずに学校に通っているとか、、そういう時の頭の回転は驚くほど早く、数字の記憶力もとても良い。計算出来る事と、数値をイメージする事はきっと別なのだろう。どちらが賢いのかはわからないが、数字の見え方が人によって違うのは、とっても面白い事だと思う。数学は私達の身近にいつも有って、欠かせない存在なのだ、と思う。


以下、数理女子事務局からの質問にお答えいただきました!

⭐︎お菓子のデザインで対称性、非対称性、多角形など、幾何的な形は参考にされたりしますか。

参考にします!
対称性を大切にする事の方が多いと思います。場合によって、より自然に、ナチュラルに仕上げたい時は、非対称性を意識している様な気がします。幾何学的な形はお菓子では難しいのですが、最近では色んな幾何学的な模様や形の型もあります。お菓子がより立体的に仕上がる事から、その違和感に美しさを感じられると思います。
私のお店でも、イースターのチョコレートに犬の型を使ったのですが、それも立体的で、幾何学的なものでした。可愛さと格好良さが混同している所が気に入っています。

 

 

⭐︎国が異なると硬水・軟水、乳製品なども、成分が異なるかと思いますが、東京・NY・台湾・フランスでお菓子作りをされる際に成分計算が重要だったかと思うのですが、その辺りを簡単に教えていただけないでしょうか。

パンを作る工程で、軟水か硬水かはとても重要で、基本的に日本は軟水、フランスは硬水と言われ、硬水の方が、フランスパンを作るのに適していると考えられています。それに加えて、粉の強度も有るので、成分計算と温度調整がとても大事になってきます。特にパンのレシピは、粉、水、イースト、塩の4種類のみ、この成分の調整と掛け合わせで美味しくなるかどうかが決まる、常々、奥が深いなあ~と思います。
一方お菓子では、違う国で、同じレシピを使って作っても面白いくらいに味が変わります。特に生クリーム、卵は敏感で、その時に応じてレシピを変えました。もう一つ面白いな、と思うのは、昔からリスペクトされてきたレシピもそのまま使えば、やはり美味しさに欠ける。素材の成分が変わっていくのと同じ様に、私達の味覚も徐々に変わっていくのだと思います。それに伴って、私達のお店では、昔よりも油分や糖質を控えたお菓子を目指しています。

※2022年7月掲載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。

著者略歴

Pâtisserie S. パティシエ
金井 聡美
フランスボルドーで、台湾人の旦那とお菓子屋をやっています。
5歳の娘と1歳になるフレンチブルドッグと暮らしています。
息抜きに日本のドラマや映画見るのが大好きです。

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