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数理女子座談会 〜慶應義塾大学〜:数学と私たち 前編

今回の座談会に集まってもらったのは慶應義塾大学理工学部数理科学科の5名の学生さんたち。彼女たちのキャンパスライフを前後編の2回に分けてお届けします。

――本日はよろしくお願いします。早速ですが、自己紹介をお願いします。

左から、笹野さん、篠田さん、嬉野さん、奥田さん、小野さん

左から、笹野さん、篠田さん、嬉野さん、奥田さん、小野さん

篠田しのださん:修士1年の篠田です。力学系の分野を専攻しています。
笹野ささの芙美香ふみかさん:学部3年の笹野です。統計学の研究室に入ります。
奥田おくだ真子まこさん:学部3年の奥田です。整数論の研究室に入ります。
小野おのあかりさん:学部3年の小野です。統計学の研究室に入ります。
嬉野うれしのゆうさん:学部3年の嬉野です。確率論の研究室に入ります。

――皆さんが数理科学科に進学した理由やきっかけを教えて下さい。

篠田さん:私は高校の先生の授業がきっかけです。その授業では手作りのテキストや、大学で勉強することになるイプシロンデルタ論法※1の話などをしてくれました。これから先どんなことを勉強するのだろう、と興味をひかれて数学をより勉強してみたくなり、進学を決めました。

実際に使用した、手作りのテキストたち

実際に使用した、手作りのテキストたち

小野さん:え! 高校でイプシロンデルタ論法をやっていたんですか!?

笹野さん:高校の授業だと覚えることも沢山あって、パンクしちゃいそうになりませんでしたか?

篠田さん:中高一貫校だったので、時間的な余裕もあったのが良かったと思います。あとは、とにかく楽しかったのが大きかったですね! 特に図形と方程式では、方程式の問題が図形を示していて、共有点を求めた最後に方程式の問題に戻る、という流れを理解してから数学ってすごいなって。そこで数学の魅力に気付けた気がします。

笹野さん:私が数学の魅力に気付いたのはマウリッツ・エッシャー※2の絵でした。初めて見た時には不思議な絵だな、という感想でしたが幾何学で構成されていることを知ってから数学の凄さを知って夢中になりました。

※1    イプシロンデルタ論法:関数が連続であるかどうかを厳密に表わすために利用する数学の言葉。

※2    マウリッツ・エッシャー:幾何学的な模様と目の錯覚を利用した絵を書く画家。

マウリッツ・エッシャーの『昼と夜』。白と黒の対称が見るものを惹きつける

マウリッツ・エッシャーの『昼と夜』。白と黒の対称が見るものを惹きつける

嬉野さん:すごく綺麗! 美術的な作品だけど、数学の要素も含まれているんだ……。

奥田さん:私は小学生の頃に友達から借りた本『博士の愛した数式(著:小川洋子)』がきっかけでした。当時は数式も何もわからなかったので、作中に登場する記号や数式が気になって気になって仕方ありませんでした(笑)。

高校数学の知識があれば、より楽しめる名作だ

高校数学の知識があれば、より楽しめる名作だ

――『ガリレオ』なども学者が主人公のTVドラマとしてとして話題になりましたね。テレビや映画などで数学を取り扱う作品も多いですが学んでいる身として、どう思いますか?

奥田さん:ドラマで登場する理系女子はあまり共感できない所もありますね。円周率を50桁まで覚えているとか、そんな特別な人いませんよ(笑)。あとは友達から「数学科だったよね。数式教えてよ。できるでしょ?」みたいなこともあったり……。数学好きは天才肌、みたいな先入観がみんなどこかにあるんですかね。

篠田さん:すごくわかる! 私たちにも不得意な分野はあるんです。

数学的な概念はあるものの、子供向けの本なので誰でも楽しめる一冊

数学的な概念はあるものの、子供向けの本なので誰でも楽しめる一冊

奥田さん:少なくとも私は計算が得意ではないです。それでも数学って絶対にそれだけじゃないし、自分に合う、楽しいって思える分野もたくさんありますよ。そういう部分をもっとテレビとかで取り扱って欲しいですね。

――数理女子ならではの悩みですね。

小野さん:私も本がきっかけで数学が好きになりました。この『数の悪魔(著:ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー)』という本です。

数学を嫌いな男の子が作中に登場する数の悪魔を通じて数学の様々な面に触れていき、数学や悪魔を好きになるというお話です。フィボナッチ数列※3などを取り扱っていることもあって初めは難しかったですが、今では最後の章で取り扱っているクラインの壺※4のお話が特に好きです。

 

物理学にも触れており、数学を専攻していない人でも読める

物理学にも触れており、数学を専攻していない人でも読める

嬉野さん:やっぱり本がきっかけの人が多いですね。私はこの『興奮する数学(著:キース・デブリン)』という本です。ミレニアム問題※5について書いた本で、一見解けやすそうなのに、答えが出てこなくて、数学って面白いなと思わせてくれた一冊でもあります。

奥田さん:懸賞金がでるってすごいよね。難しすぎるでしょ! っていう。

嬉野さん:少しだけ考えたことはあるけど、頭から煙が出ちゃいそうだった。ああいう問題は数学者がじっくり時間をかけて初めて解ける問題なんだと思うな。

※3    フィボナッチ数列:前の2つの数字を加えると次の数字になる、という数列。

※4    クラインの壺:裏表がない二次元曲面の一種。また、メビウスの帯も有名。

※5    ミレニアム問題:100万ドルの懸賞金がかけられている問題。7つの問題があったが、ポアンカレ予想が解決され現在では残り6問となっている。

(後編につづく)

●次回予告
現在の進路に進むきっかけとなった思い出の品を教えてもらいました。次回は彼女たちのキャンパスライフに注目。未来の数理女子に向けてのメッセージも!

※2016年3月掲載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。

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