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この文章を書いたのは?

外資系企業 広報コンサルタント

林 紅

人生の解は決して一つではない

数学を学んでいる皆さん。将来はどんな仕事に就きたいですか?
5年後、10年後は何をしているでしょうか?今回は、数学と人生のお話をお伝えしたいと思います。

憧れの教授を追いかけて数学科へ
私は、藤原正彦先生に憧れ、お茶の水女子大学で数学を学びました。私の入学当時には、すでに名誉教授になられていたので、ゼミで直接教えていただく機会はありませんでしたが、推薦入試のときには、藤原先生の前で解答を示し、授業もいくつか受講できたことを覚えています。まるでアイドルが目の前にいるかのように、憧れの方を目の前にして、キラキラとした目で教室にいた大学生でした。そして、数学が大好きでした。

大学生時代に経験した挫折
しかしこの頃、私が見ていた「将来」は、創造性も柔軟性もないものだったように思います。とにかく、「いい大学に行って、いい会社に入らなくてはいけない」と考えていました。大学院に進んでからは、好きだった数学も、やがて論文や成果に追われる「義務」になっていき、「〇〇がしたい!」「〇〇が好き!」といった湧き上がる衝動がなく、家族から求められる自分であるために「何をしなくてはならないか」という思考回路。就職活動で取り繕うも、そのような状態ではもちろんうまくいく訳はありませんでした。

母の言葉
「やりたいことを思い切りやればいいよ」。母がそんな一言をくれました。「大学を卒業したら就職しなくてはいけない」という前提を取っ払ったら、何がしたい?と。そんなこと考えたこともなかったので衝撃的な言葉だったのですが、頭の中にずっとあった霞が晴れ、救われた気持ちになりました。そして、私はニュージーランドに行き、英語を学ぶことにしました。国際的な場で活躍したいと昔から心の中にあったので、そんな夢を追いかけるラストチャンスだと思ったのです。

そして、海外へ
結果、ニュージーランドに数年間滞在し、英語学習だけでなく、海外での大学院進学や仕事経験を経て、今、日本の外資系企業で広報の仕事をしています。外国企業を相手に、英語を使う毎日。大学生の頃に考えていた「将来」のような、大手企業への就職も数学者になることもなかったけれど、一番重要だった夢が叶った今、とても幸せを感じています。

メッセージ ~数学好きの強さ~
数学を愛する学生の皆さん。努力を惜しまず、邁進してください。数学ができる人材は強いです。これは、日本とか海外とか関係なく、万国共通です。計算力ではありません。正しい「仮定」を設けて、ロジックを組み立てていき、結論まで導き出せる能力は、どんな仕事でも重要です。

そして、もう一つ。「人生の解が一つではないこと」も忘れないでください。「〇〇をしなくてはならない」と思ったら、一旦立ち止まってもいいかもしれません。その仮定を疑ってください。もっと自由に、想像力を持って。直線や座表平面を愛し、無限大に思いを馳せた皆さんなら、できると思います。数学好きは、現実世界には存在しないものも、想像できてしまうほどのクリエイティビティを持ち合わせているのです。

おわりに
今回は、私から数理女子をご覧の皆さんへのエールとさせていただきました。私自身が、家族と友人、そして数学の世界に支えられてここまで来られたので、自分がしてもらったように、皆さんの背中も少しでも押せたらいいなと思いました。数学を、思い切り楽しんでください。

 

※2021年11月掲載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。

著者略歴

外資系企業 広報コンサルタント
林 紅
お茶の水女子大学大学院にて、数学の修士号を取得。専門は、位相幾何学と代数幾何学。その後、ニュージーランドに移り、オークランド大学大学院にて、ビジネスマネジメントの修士号(MMgt)を取得。現在は帰国し、外資系企業で広報コンサルタントとして勤務。

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