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この文章を書いたのは?

理化学研究所 基礎科学特別研究員 (分野横断型数理科学連携研究チーム)

Ade Irma Suriajaya

その第一歩を踏み出す勇気を
-Conquering your fears -on to that first step-

皆さん、初めまして!インドネシア出身の Ade Irma Suriajaya、通称チャチャと申します。私は去年の夏に名古屋大学大学院多元数理科学研究科にて、松本耕二教授の下で数理学の博士号を取得し、現在は埼玉県和光市に所在する理化学研究所、通称理研に勤めています。解析的整数論を専門にし、特にゼータ関数とL関数及びそれらの導関数の解析的な性質に興味を持っています。 

 私は中学生の頃から科学に非常に興味を持ち、もっと前の10歳の頃から留学することも夢見ていました。残念ながら様々な理由により高校を卒業するまで留学することは無理でした。しかし自分にできることをやっていくうちに自分が目指す場所へ向かう新たな道が自然と開くこともあり、その道は不思議なことに想像さえできなかった、自分が目指していた所よりも良い所に連れて行ってくれることもあるということが分かりました。 

私が育った環境では純粋科学の研究など存在しないというような偏見が強く、私もそのような雰囲気にすっかり呑まれ、大学では工学部に入ると迷わず決めました。実際母国では、純粋科学分野で卒業したら学校の先生にしかなれない、とよく言われていました。

 小さい頃外国語は英語しかできず、英語圏以外の国に行くことは全く考えていませんでした。運良く14歳の頃から中国語を学ぶ機会に恵まれ人生の新たな道が広がりました。高校卒業の数ヶ月前、中国の色々な大学を紹介するイベントが地元のジャカルタで開催されました。参加してみたら中国の方達と中国語で交流できる自分に感心してしまい、またここなら経済的な心配もなく留学できるかもしれないとにも気が付きました。両親を無事説得でき、高校卒業後航空工学の勉強をしに中国へ渡航しました。

留学をしてすぐ、自分でもそれまで気が付いていなかった本当の自分を発見することになりました。学期が始まりわずか数週間の微分積分授業の影響で、数学と深く恋に落ちてしまったのです。残念ながら私が入った大学は航空科学関係の専門が主であり、当時学部生向けの純粋数学の専攻はありませんでした。その大学に残るか転学をするかと色々悩んでいたら、交換留学生として他の大学へ移るアイデアが思い浮かびました。

 学部生3年の時運良く交換留学生として日本で学ぶ機会を掴むことができ、名古屋大学に来ました。名古屋大学では工学から離れ、今まで勉強できなかった純粋数学を勉強すると決めました。

「よし!やっと自分がやりたかった数学ができる!」と思いきや、英語で受けられる授業が非常に少なく、興味のあるものはほぼありませんでした。しかもその中、数学の授業が一つしかなく、それも大学4年生以上向けの授業で当時の私には、当然かもしれませんが抽象代数学や純粋解析学を理解することは無理でした。幾何学の内容がその授業に入っていなかったことがせめての救いでした。絶望に追いやられた私は、大好きな数学をするために日本語を勉強するしかありませんでした。名古屋大学にとても良い集中的な日本語の授業があったおかげ、それに加え春休みの猛烈な勉強のおかげで次の学期には言語の壁なく純粋数学の勉強ができるようになりました。

日本に留学したおかげで日本語と純粋数学の勉強ができただけでなく、この国の魅力を知ることができ、中国で大学卒業後にまた日本に戻ることを決心しました。再来日後も数学の知識不足で最初は楽ではありませんでした。周りの仲間たちがそれぞれの研究の準備をしている間、自分は数学の基礎的な勉強もしながら専門分野の基礎的な学習をしなくてはいけませんでした。

 「努力は無駄にならない。」「強い情熱で努力をし続ければ自分の弱点は克服できる。」という事実を忘れることなく私は粘ってきました。自分には才能がないのかもしれないという思いに奮い起こされて今まで20年近く、欲しいものを手に入れるために、失敗する恐れを乗り越え戦ってきました。そうしているうちに自然と「才能」の存在を、否定はしませんが疑い始めてしまっていました。皆さんも新しい場所で歓迎してもらえない経験をするかもしれませんが、それはよく起きてしまうことです。新たな環境に慣れるのは難しいともよく言われていますが実際、知らないからこそ好きになれない、ということもあります。そして例えその新しい環境に私たちを歓迎しない人たちがいたとしても、そうでない人たちもいるはずです。また歓迎していないように見える人たちは、「歓迎していない」のではなく、「馴染みのないものだから歓迎できなかった」だけかもしれません。実際自分でも最初はその新しい環境に適応できるかどうか分からなかったのではないでしょうか。なので例え厳しい言葉で何度叩かれても、慣れるまで何度躓いても、諦めずに立ち上がって下さい。本当に好きでどうしても手に入れたいものであれば、手にするためには困難を乗り越えるしかないのですから

私は中国と日本に留学し、そしてまた日本に戻ってきたことを一度たりとも後悔したことがありません。日本で活躍できたおかげでやりたかったことができ、なりたかったものになれ、国際的に活躍することもできました。これを可能にしてくれた今までに自分に与えられてきた貴重な機会、返せないほどの支援、優しく接しながら支えてくれてきた人たちに心の底から感謝しています。私はこの道を選んだおかげで数学以外に外国語にも興味を持つようになりました。自分が描いてきた理想に従ったとすれば出会うことのなかったこの人生は、非常に美しく楽しいものです。この人生は幼い自分が描いていた夢とは違う形をしていたとしてもこれはただ、同じ夢の別の解釈、もう一つの「具体化」だと考えています。私は今ここにいる自分にとても満足し、悔いなくやって来ました。道はまだまだ続き、これからも大変なことはあると思います。それでもいつも笑顔で困難に立ち向かい、自分の最善を尽くしていければいいなと思います。是非一緒に頑張りましょう!

 私が伝えたいことは皆さんがもう聞き飽きたような言葉だらけで、また私のような話はこの数理女子のウェブサイト内にも他にたくさん見つかると思います。私はこの記事を通してただ、皆さんがもうすでにたくさん聞いてきたその暖かいメッセージを思い出してもらいたかっただけです。最後まで読んでくださった皆さん、少しは元気が出たでしょうか。最後にもう一言。皆さんも数学の世界に大歓迎です。いつか数学を通してお目にかかれることを楽しみにしています!

※2018年2月掲載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。

著者略歴

理化学研究所 基礎科学特別研究員 (分野横断型数理科学連携研究チーム)
Ade Irma Suriajaya
数学での興味:解析的整数論,ゼータ関数とL関数の解析的な性質
数学以外の趣味:(基本的には)音楽を聴くこと
 (これ以上書くと大変なことになりそうなので、ここまでにします。機会があったら、直接話しましょう!)

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