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Profession

セキュリティ

interview インタビュー

このインタビューを受けたのは?

NEC セキュリティ研究所 特別技術主幹、日本学術会議連携会員

佐古 和恵

数学とセキュリティ(安全・安心)

佐古 和恵(さこ かずえ)さんは、世界のセキュリティをリードするNECのセキュリティ(特に暗号分野)についての代表的な研究者であり、かつ一男一女のお母様でもあります。グループ署名と呼ばれる技術(演算処理アルゴリズム、演算処理方式)開発では世界を牽引してきました。数学を実際の社会に役立てながら働く、輝く女性の先輩として、佐古さんに色々なお話を伺いました!

――暗号に興味をもたれたきっかけは?
 数学科を出て会社に就職してすぐ、フェルマーの小定理という数論の美しい定理を使った RSA 暗号*1に出会いました。純粋な数学が暗号開発にも繋がると知り、衝撃を受けました!それをきっかけに暗号を用いたセキュリティ研究を開始しました。NECは安全・安心・公平・効率をとても大切にする会社です。数学を用いた暗号は、安全なセキュリティシステム、公平な投票制度等を実現する際に大いに役にたちます。

 例えば、今世界的な広がりを見せる「ビットコイン」などの仮想通貨は、「ブロックチェーン」という基盤技術により支えられていますが、その「ブロックチェーン」を支えるのも数学です。数学のアイディアによるブレークスルーを通して、中央銀行等の組織や人による確認を経ることなく信頼性を担保できるようになりました。ブロックチェーンの発想をセキュリティ分野に持ち込むことも始まっています。数学は今のセキュリティを支えているだけでなく、より安全・安心・公平・効率的な新しいセキュリティシステムの開発にも、非常に役立っています。

 このように、私は、入社以来、数学を用いた暗号・セキュリティ研究を続けています。

――佐古様はお母さんでもありますが、お母さんという視点はセキュリティや暗号開発のようなお仕事でも役にたっていらっしゃるのでしょうか。
 私は自分のことを「生活者視点の暗号研究者」だと言っています(笑)。お母さん目線ともいえますね。お母さん目線では、日々、いろいろなところで世の中の安全や安心、公平かどうか、などが色々と気になってしまいます。

 例えば、何かに応募して抽選であたる!というようなシステムも、本当に公平に選ばれているのかな?と気になってしまいます。実際は、こうした応募の場合、本当に厳選な抽選で選ばれていると確認できることは少ないのではないかと思います。そもそも社会では抽選ではなくて、早いモノ順であったり、さまざまな要因が忖度されたブラックボックスで物事が決まっていたり。でも、公平性が大切なものである場合、誰でも公平である!と(人や組織を通さずに)信頼できる抽選システムがあれば素敵ですよね。こうして生活者の目線から「暗号技術を活用して、インターネットで安全かつ公平に抽選ができる電子抽選システム」が生まれました。誰でもどこにいても応募でき、かつ数学的に公平さが担保された抽選システムです。

 同様の「電子投票システム」も、実際に一部運用が始まっています。一人一票の原則、有権者であることの確認、匿名性の確保、集計が正しいことの確認等を、暗号を用いて(人が確認するのではなく数学的に)担保しています。実際、紙で集計を行う場合、時々、集計もれの投票用紙が見つかったという報道もあり、一個人が集計ミスや不正がなかったことを直接確認するのは難しいです。そうした不安や疑念を、数学の力で取り除けると良いですよね。

 このように、私の場合、おかしいな、不安だな、と思うお母さん目線の感覚を出発点として、それを数学の力で解消することで新しい研究を生み出しています。

――でも、電子投票では本人確認の際に何かを入力すると匿名性が失われるのではないでしょうか。また、個人情報も漏洩しそうで心配です。
 そこで使われるのが「ゼロ知識証明」の考え方です。この「ゼロ知識証明」とは、たとえば本人認証をする際に、パスワードなどの秘密情報をいっさい相手(確認者)に伝えることなく、本人であるという事実のみを暗号技術をつかって相手に伝えられるという、驚くべき方法です。そんな不思議なことがなぜできるか、というと、まさにここで数学の力が存分に発揮されているのです。興味を持った方は、ぜひその仕組みを調べてみてください。

――これからの時代に大切なことは何だと思いますか?
 特に女性は、多様な生活者視点が持てることは、これからの時代においては強みだと思います。さらに、数学力や技術力を持つことは、何か課題を解決する・アイディアを実現するときに大いに役立ちます。そして、さらには、そうして生まれたものを、できるだけ社会に広く伝える・多くの方に使って頂ける技術にまで育てる、ということも大切だと思います。

 例えば、入社して最初の仕事は、内部不正が懸念されて採用してもらえなかったプリペイドカードに、私は数学の力で高速に処理できる認証機能を搭載し、レストランやタクシーでの支払の利便性を向上させることができました。研究と社会をうまく橋渡しする姿勢が大切ですね。日常の生活者目線を忘れず、数学や技術の力でソリューションを導き、そこから社会にとって実際に役立つ仕組みや技術を実際に生み出していければと思います。

 

■NEC研究者(佐古様)プロフィールはこちら
 
■NEC・ 研究開発のHPはこちら

※1 RSA暗号:桁数が大きい合成数の素因数分解が難しいことを安全性の根拠とした公開鍵暗号の一つ。なお、公開鍵暗号とは情報の暗号化と復号に別の鍵(手順)を利用し、暗号化の鍵を公開できるようにした暗号方式のことである

※2018年6月掲載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。

このインタビューを受けたのは?

NEC セキュリティ研究所 特別技術主幹、日本学術会議連携会員
佐古 和恵
電子投票、電子入札、電子抽選、匿名認証など、セキュリティとプライバシーを両立させ、公平性を保証する暗号プロトコルの開発研究に従事。
Asiacrypt 2012, 2013, RSA conference 暗号トラック2016, Financial Cryptography and Data Security 2018 などのプログラム委員長・共同委員長を務める。
ISO/IEC JTC 1/SC 27/WG 5 アイデンティティ管理とプライバシー技術国内小委員会委員。ISO/TC307 ブロックチェーンと分散台帳 国際エキスパート。日本学術会議連携会員。第26代日本応用数理学会会長。H30年度電子情報通信学会副会長。

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