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Profession

数学と保険

column コラム

この文章を書いたのは?

外資系生命保険会社 数理部門勤務

鳥生 梓

数学好きな私が生命保険会社に就職したワケ

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私は大学と大学院で合計6年間数学を学び、現在生命保険会社の数理部門で働いています。数学科に入学したとき、「数学科を卒業して将来何になるの?」と周りの方々からよく聞かれました。知識のなかった当時、数学を使える仕事は学校の先生くらいかなと思っていました。前半ではそんな私がどうして生命保険会社へ入社したかのいきさつを、後半では私を育ててくれた数学科女子ならではの楽しい学生生活をご紹介します。

初めて保険という言葉を知り、そして関心を持ったのは小学2年生の時。当時8歳と4歳だった従兄妹たちのお父さんが頭の病気で突然亡くなったことがきっかけです。新築の一軒家を建て、新車を買い、まさに幸せいっぱいの生活を一変させた出来事でした。そんな時に手を差し伸べてくれたのが生命保険会社でした。保険には、みんなが少しずつお金を出し合い、その中の誰かが困ったときにお金をお支払いする相互扶助の役割があり、悲しさとともに貧しさが訪れないようにする大切な存在だと知りました。

数学に興味を持ったのは中学2年生の時、「博士の愛した数式」(小川洋子著)を読んだことがきっかけです。この本では、オイラーの公式$e^{i\pi}+1=0$について深く追及していて、円周率$\pi$と虚数単位$i$と自然対数の底$e$がきれいにつながるという、この世にはこんなにも美しい数式が存在すると知りました。大学入学後、オイラーの公式を習い、証明を理解できた時に感動したことを今でも覚えています。

大学3回生の時、保険と数学が手を繋いだ保険数学と出会いました。抽象的な数学とは異なり、実社会と密接に関わっていて、数学はとても社会に役に立つということを知りました。保険数学を学ぶにつれ、保険や年金、金融などの多彩なフィールドで活躍する数理業務のプロフェッショナルであるアクチュアリーという職業があることを知り、興味を持ちました。

修士1回生の時、アクチュアリーのお仕事を体験するインターンシップに参加しました。インターンシップとは、実際に会社の中に入り、その会社で働く社員の方々からご指導を受けながら仕事内容を体験するものです。例えば「保険料を設定して、新しい商品プランを作ろう」という課題を数人のグループで考え、結果を発表しました。なぜそのような商品にしたのか、なぜ保険料をこの数値にしたのかという理由が必要なため、他社の保険料水準や日本人の死亡率など様々なデータを分析しなければならず、数学を学んで身につけた物事を論理的に深く追及する力がとても役に立つと思いました。これまで学んできたことを生かして、大切な人を失った方々の心の傷を治してあげることは出来ないけれど、本当に困った人に確実に保険金をお支払し、お役に立ちたいと思い、生命保険会社に入社しました。

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話は変わって、数学科女子の楽しい学生生活をご紹介します。数学科はほとんどの大学で男性が多く、女性が少数派です。私が所属していた京都大学大学院の数学教室はとても女性が少なく、私の学年は40人中女性は2人でした。女性がいない学年もあります。しかしさみしいなんて思ったことはありません。少人数であるからこその団結力で、修士2回生の1年間で数学教室の女性の事務員さんを交えて3回の女子会を開催しました。秋にインドから留学生が来られたとき、歓迎会を兼ねて参加者14人の女子会を開きました。また別の機会に、日本人チームは天ぷら、お好み焼き、ちらし寿司、チーズフォンデュ、カナッペを、インド人チームはインドカレーとチャパティをそれぞれ調理し、異文化交流を兼ねた楽しい時間を過ごしました。

数学は時間的縛りが少なく、場所は問わずにどこででも学べることが魅力です。私はよくカフェで数学をしていましたし、京都や奈良の世界遺産を眺めながら友人と数学の議論をしたこともあります。さらに数学を学んで身につく論理的な思考力は、どんな仕事にも応用できると思っています。数学好きな方々、ぜひ数学科の世界にお越しください!toriu

※2016年6月掲載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。

著者略歴

外資系生命保険会社 数理部門勤務
鳥生 梓
京都大学大学院理学研究科 数学・数理解析専攻修了

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