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この文章を書いたのは?

大人のための数学教室 和(なごみ)講師

佐々木 和美 (旧姓:端山)

家庭と両立できる仕事を求めて

学で学んだことを生かせる仕事に就きたでも結婚・出産後は、どうなるんだろう。子どもと公園で砂遊び、休日の家族キャンプ、毎朝のお弁当作りと送り出し、家族の誕生日のお祝い、庭の手入れ・・・、そんなささやかな夢は叶うのだろうか。こんな不安を前に、出産・退職後も短時間勤務での再就職ができるようにと「薬剤師」「看護師」「医師」等の資格取得を目指す女子が多いようです。工学系、数物系に進む女子が少ないのは、一度離職してしまうと学歴が無意味になってしまうというイメージがあるからかもしれません。

私の場合、大学・大学院で数学を学びました。数学科では実験や実習はないので、毎日15時に授業終了(当時)。よく驚かれるのですが4年生の卒業論文もありません。ゆるーい世界なので、その分、自主性と積極性が不可欠です。そんな数学科の学生はそろって「いい人」。計算高い人はいませんでした。数学ってずるができない世界だからかな。

 大学院修了後は、主婦業・母親業をしながら、大学サークルで覚えたコントラクトブリッジ(トランプゲーム)関連の仕事を少しずつしていました。そのほかにもPTA活動や子どもの習い事の役員など、誰かがしなくては世の中が回っていかない大切な(けれど収入にはならない)仕事はたくさんあります。そして子育てが一段落した頃、再び、家庭教師、塾講師、数学書の校正など、高校・大学時代に学んだ数学を生かした仕事を始めました。

家庭教師や塾講師を再開して思ったのは、数学科でよかった、ということ。他の学科であれば、15年以上も前に学んだ知識は古くなり、学び直しが必要だったかもしれません。でも数学では、2500年前に発見されたピタゴラスの定理が古くて使えないとか、正しいと信じられていた定理が新しい学説にとってかわられた、なんてことはありません。数学の真実は永遠に真実。小学校から大学までに学ぶ数学の内容も、昔からほとんど変わりませんし、社会における数学の重要性も古今東西問わず普遍的です。変化や進展の激しい現代に、これは大変珍しいことだと思います。何の資格も持たない私が子育てのブランクを経ても大学で学んだことを生かして働けるのは、そんな、時を経ても古びることのない数学の恩恵だという気がします

数学書籍の校閲・校正の仕事がどんなものか、少しご紹介したいと思います。著者さんから出版前のゲラ(原稿)を受け取り、内容を読み込んで修正箇所を書き入れ、宅急便で返却します。定期的に仕事があるわけではありませんが、自宅にいながら自分のペースでできるのが魅力。数学書が一般書籍と違うのは、数式があること、内容が専門的なこと、そして正誤確認の重要性です。通常の文字校正のほか、$ R^i _{jkl} $のような式中の小さな添え字を見て「1」と「ℓ」を取り違えていないか、論理の飛躍や計算ミスがないかなどを丁寧に確認します。数式耐性のない方にはとてもできない仕事ですが、ほんの小さな誤植でも初学者が理解不能に陥ってしまうことを考えると、とてもやりがいがあります。そのうえ、些細な間違いを指摘して喜んでもらえるなんて、楽しいですよ。普段の生活でやったら絶対嫌われますが。

こんなふうに家庭中心の生活をしつつも、数学関係の仕事を通して再び数学の勉強をさせてもらっています。今は、トポロジーと一般相対論や量子論的宇宙論とのつながりが気になっていて、これを仕事にできないかな、などと欲張りなことを考えています。結局好きなことばかりして生きている私を、理解し支えてくれている主人と娘たちに感謝です。

※2017年6月掲載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。

著者略歴

大人のための数学教室 和(なごみ)講師
佐々木 和美 (旧姓:端山)
三女の母 
東京大学 理学部 数学科 卒
東京大学 大学院 数理科学研究科 トポロジー(位相幾何学)専攻 修士課程修了

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